子供に教わる今どき起業リアル: 世代ギャップを乗り越えて動きだすまで

1 ビジョン
~結局何がしたいわけ?~
「お母さんがお金出すからホームページ作って。」
5年程前、個人で仕事を始めた
息子への資金援助と
”経済的に自立したい”という気持ちで
乗り出した起業への道。

クライアントとして、
めったに連絡して来ない息子と
話しが出来、
ホームページが出来たら
起業して集客もしやすいし”一石二鳥!”
我ながらいいアイデアだと
ルンルンしていた頃が懐かしい。

この一言から始まった起業の夢が
リアルになり
そのスタートラインに立つまで
これほど長い道のりと険しい時間が
待っているとは
想像もしていなかった。

当時の私は
ネットの完成度の高い
ホームページを見て
自分が持つテーマと
イメージを伝えさえすれば
依頼したプロがちゃちゃっと
素敵なページを
作ってくれるものだと
思い込んでいた。

なのに…。
早く作って欲しいと思い
息子と連絡をとるたびに
”一体何をしたいのかという話”ばかり。

ホームページさえ出来れば
それを使って何かが出来る
と考えていた私と
ホームページは
実際に何かをするために創るもので、
コンセプトが固まっている事が大切
と言う息子の間の溝は埋まらなかった。

その頃は
セミナージプシー真っ最中で
新しい資格を取ったり、
珍しいツールと出会ったりするたびに
やりたい内容が変わっていた。
しかも
個人で何か始めるという事を
ものすごく甘く考えていた。

自分が持っている資格とか
ツールとかをお裾分けして
お金をいただくという感覚。
完全に上から目線。
今考えると最低だったと思う。

だから、息子からは
「で(怒!)
お母さんは結局何がしたいわけ??
 そんな曖昧な感じで
ホームページなんて
作っても何の意味もないし…。」
と叱られる始末。
「まあ、
とりあえずブログでも始めれば!」と
WordPressで
セッティングだけしてくれて
投稿の仕方を教えてもらって放置。

おっかなびっくり書き始めたら、
ジャーナルみたいで
楽しくはあったけど
個人の記録に過ぎず
何の役にも立たないまま。
月日だけは過ぎて行った。

2 視点~何のためにするの?~
”ホームページ”を
作ってもらうという
最初の目的は果たせたけど、
結局、何の役にも立っていない。

「やっぱり何かを始めたい!」
でも実際に何かをするとなると
自宅はマンションで使えない。
(当時は
オンラインなんてなかったから)

何かをするなら場所がいる
と探し始め
知り合いから一軒家の中の
キッチンや部屋を借りる事が
出来る事になった!

”さあ舞台は整った!
何でも出来る”

「でも…どうしよう?」
その頃考えていたのは
クッキングを取り入れた事業。
(事業なんて大げさだけど…。)
ただの料理教室なんて
誰も来てくれない。
だったら英語でクッキング?
(海外生活をしてたから
英語はまあ大丈夫。)
いっそ、
外国人観光客に
特化して和食を英語で教える?
という事で
”わしょクック”という所で
外人対象の教え方や
集客の仕方まで習い
お金と労力をつぎ込み準備した。

手数料は必要だけど
”わしょクック”に
海外からの申し込み窓口もお願い出来、
面倒な会計や
トラブル処理も任せられる。

後はお借りする事になっている
キッチンのリフォームを
待つばかりだったのだけど…。
それがなかなか進まない…。

しかも、待っている間に
自分の中に不安が広がる。
外国人観光客なんて
そんなに
しょっちゅう来るわけじゃない。
不定期の収入より
定期的な収入が欲しいかも…。

という事で、
今度は親子対象の英語での
クッキングレッスンを考え始めた。
ここは
家庭科講師というオリジナリティも
取り入れて
”エシカルクッキング”はどう?

食器関係は全て木や金属で
プラスチックは使わない。
器具も出来るだけ自然素材。
ラップも蜜ろうのものを準備。
小さいキッチンだから
親子2組まで位かな…。
よその料理教室を参考に規約も作り
ホームページにアップする。

そうだ! 
料理で怪我などをした時のために
保険も入らなきゃ…などと
準備だけは着々と進めた。

ところが…。
その最中に実家の父の具合が
悪くなり入院。
学校での家庭科の仕事に加え
度重なる帰省と
父がどうなるか分からない状況で
落ち着かない。
リフォームしていただいたキッチンで
体験レッスンさえ出来ない状態。

というより、
もし父に介護が必要になったら
個人で何か始めるなんて無理だ…。

モチベーションが下がり続ける中
それまで準備にかけて来た時間と
お金が頭をよぎる。

「諦めて全部無しにする?」
どうしたらいいか迷っていた
昨年の冬。

夏過ぎから入院していた父は
持ち直したり危篤になったりを
繰り返していた。

「どうなるか分からないなら、
とりあえず一度やってみよう!」
知り合いの
小さいお子さんのいるママに
お願いしてクリスマス仕様の
ヴィ―ガン食材のクッキー作りを
英語でやらせてもらったのが昨年12月。

やってみて分かったのは
お借りする予定のおうちは
トイレや洗面所など
階段を使う必要があり
小さいお子さんには
向かないという事。

これで振り出し…。
その頃、
父が亡くなり
起業どころではない日が続いた…。

あの頃は夢物語のように
やりたい事を思い描き
準備をすすめていたけれど
心の中にはずっと不安があった。

それは息子に言われた事。
英語でのクッキングレッスンの
集客のためにホームページを使うという
連絡をした時に言われたセリフだ。

「どうせ、お母さんの事だから
またすぐ違う事を
するって言うんでしょ」

「お母さんは誰のために
何がしたいの?」
「何のためにするの?
 それは一体、誰の役に立つの?」
「自己満足なら
ボランティアでも
 いいんじゃないの?」

言われた言葉の数々に
返す言葉がなかった。
自分でも分からない。
分からなかった…。
本当は何がしたいのか?

3 コミュニケーション
~どこで繋がるの?~
妄想の世界だけで
起業を思い描いているのは楽しい。
現実的でなくても
明るい未来が
待っているような気がした。

父の事があってから
たとえ非常勤講師でも学校に
勤めていると
帰省が大変という事が
よくわかった。

個人で何かを始めれば
自分のタイミングで自由に
スケジュール管理が出来る!
とても魅力的に思えた。
息子の次の言葉を聞くまでは…。

「で、お母さんは自分の教室に
来てもらえそうな人達と
どこでどう繋がれるの?

フェイスブックの友達の数は?
インスタグラムのフォロワーの数は?」

おそるおそる答えた数に対して
かえって来た言葉は辛らつだった。
「はあ?ほぼゼロって事じゃん!!」

その通り。
SNSでの発信には慎重だった私。
もし生徒達に見られたらと思うと
別に変な投稿でなくても
ためらわれていた。
(SNSの投稿なんて
浜辺に砂粒なげるみたいに
ほぼ誰も見てくれないものなのにね…。)

そこから
息子によるスパルタ教育が始まる。

進捗リストを作成させられ
一日何人の人につながるかの
定期的な報告をするように言われた。
息子からの宿題。
親子は完全に逆転。

これは父が倒れる前の話。
結局、
父の事を言い訳に
私は何もしなかった。

というか
しようとはしたけど
乗る気ではなく
フェイドアウトという感じ。

ただ、この時に
自分がつながりたい人へ
どんなアプローチをしていけばいいか
詳しく教えてもらえた事には
心から感謝している。

個人で何かを始める時に
どれだけの事を
していく必要があるかが
身に染みて分かったし、
相当な覚悟が
必要な事も痛感したから…。

4 スピード感
~なぜ今すぐやらないの?~
ホームページの作成を頼んでから
息子からの連絡は以前より少し増えた。

その連絡の時に
新しい事を伝えたくて
頭の中でいつも
やりもしないビジネスプランを
立てるようになっていた。

連絡があると
意気揚々とプランを話す。
そして必ず彼が言う。

「で、いつからやるの?」
「もう、始めたの?」
これには参った。

プランは立てるけど
何も行動していない私は
息子のクライアントの中で
”一番の出来損ない”となった。
まるで計画だけ立てて
勉強せずに遊んでる子供と同じ。

さらに私にプレッシャーを
与えていたのが娘の存在。

大学卒業と同時に
スイーツショップの
雇われ店長として
菓子作りから小さな店の経営まで
ほぼワンオペでこなしていた。
(コロナで離職する事になったけど)

たまに、
お店をのぞき
「お兄ちゃんから
 出来損ないって言われた」とか
息子とのやり取りの事を愚痴ると
かえってくる言葉は決まってこう。
「だって、本当の事じゃん!」
「スピードが何よりも大切。」
「お母さんは
口ばっかりで遅すぎる」

娘のスピード感を痛感したのが
この春の彼女の行動。
失業して実家暮しをしていた
ステイホーム期間。

前日に
”ライバー”という仕事の話を
していたと思ったら
次の日には配信を始めていた。
これには心底びっくり!

アレコレ考えている間に
まず始めて
それから調整する。
これが鉄則らしい。
(私には到底マネ出来ないけど…。)

5 発想の転換
~自分に出来る事は何?~
コロナで大変な状況になった後、
息子との連絡はほぼ途絶えた。
私自身も
日々の暮しと仕事て手一杯。

一軒家で準備したモノも
そこに行って
他の人に感染させてはと
置きっぱなしの状態になる。

ただ、
何かを始めたいと思う気持ちは
ますます強くなっていった。

それは以前とは
全く違った気持ち。
「この状況の中で
どんな事が役に立つのか?」
という発想。
今までの夢物語ではない
リアルな話。

この考えを
煮詰めていくのに
子供達には頼れない。
娘は転職して一人暮らしを始め
息子はきっと
東京で必死で頑張ってる。

そこで私は
起業のコンサルを受ける事にした。

お金はかかるけど
自分の話を
丁寧に聞いてくれて
客観的なアドバイスを
いただけるのはありがたかった。

少しずつ
自分の気持ちが動き出し
薄紙がはがれていくように
自分の本当の想いに
近づいていった。

その間
自分が講師をしている学校で
コロナが与えた
影響の大きさを見て来た。

自分自身もヘトヘトになったけど
生徒達のメンタルへの影響や
他の先生方の大変そうな姿。
さらに今後変わっていくだろう
家庭科の仕事の未来。

後少しで
考えがまとまりそう…。
そんな時、
たまたま家に帰っていた
娘が言った一言が
私の想いを決定づける。

「結局、
今の私に出来る事って何だろう?」
保険の営業を始めた彼女にとって
コロナの状況下での仕事は
いろいろな意味で大変。

保険自体は
大切なモノだと思うけど
これだけ
景気に見通しが立たないと
多くの人が
保険どころではないと考えるのは
当たり前の事だろう。

それでも
営業は続けなければならない。
契約まで至らなくても
”自分に何が出来るのか?”

ふともらした娘の
自分への問いかけは
そのまま
私の自分への問いになった。

「そうだ!
今の私に出来る事は
本当にしたいと心から思う事は
先生のサポートなんだ!」

コロナ以前の私は
新しく始める事業は
家庭科とあまり関係ない事を
したかった…。

20年以上、家庭科に携わり
もう十分という気持ちがあった。

でも、逆だった。
昭和の時代から続けて来た
仕事だからこそ
この経験が何かに役立つはず!
そこに思い至った時、
目の前の霧が
ぱあっと晴れていくのを実感できた。

そして多分、
来春から始めるサポート事業は
”お金稼ぎたい”という目的ではなく、
もう少し意味があるモノに
していければと思っている。

教育現場に携わる先生方が
少しでも笑顔で
イキイキと仕事が出来たら
子供達の笑顔も
満開になるはずだから…。

6 始動~負けない自信ある?~
この気持ちを誰かに
聞いて欲しくて
夕飯を食べに来た娘に
聞いてもらう。

調子に乗って
「動画の配信とかもやってみる!」
と話した途端、
真顔になった娘が言った。
「メンタルは大丈夫なの?」
「何言われても負けない自信ある?」
そうなんだ。
それが動画配信の現実。

ライバーで配信していた時
何かがあったんだとピンと来た。
ニコニコと楽し気にしていると
勝手に思い込んでいたけど
甘くはないよね…。

子供達はいつでも
ふわっとした夢物語に
ぴしゃっと現実をいう
冷たい水をかけてくれる。
そこで身を引き締めて
自分が出来る事を
小さな事から
やっていこうと思う。

ここまで息子や娘に
言われて来た数々の事は
世代ギャップを
実感する事ばかりで
正直、凹む事が多かった。

でも、今、ようやく
動き出す事が出来て
心から感謝している。

自分が
子供達の年代だった頃は
社会全体が
バブルで浮かれる直前で
イケイケだった。
未来には希望しかなく、
日本には勢いがあった。

今は子供達の方が
厳しい現実や
SNSの世界での
リアルを知っている。

これからも子供達の声を
真摯に受け止め
自分に出来る事を
少しずつやっていこうと思う。
〈終わり〉

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