家庭科の先生対象研修のご報告 ~気になっている授業のデザインワーク~

1 家庭科教員研修のご依頼

今年度のはじめに高校の家庭科の先生方を対象にした研修のご依頼をいただきました。研修についてのご要望は、実用的で先生方がすぐに授業に取り入れる事が出来るようなアイデアや情報のシェア、家庭科の先生方を勇気づけるような内容という事でした。

そこで、みらい家庭科ラボのスタッフの25年以上にわたる家庭科での経験を活かし、どのような内容の研修が出来るか考えた末に次のようなスケジュールとする事にしました。
・実践例のシェア
・ワークの取り入れ
(メインはワーク)
・ICT活用のアイデア
・先生へのエール等

2 研修プランの詳細

研修テーマは「ワークショップ型授業の提案」とし90分で実施しました。ワークの時間を多めに取り先生方ご自身に「ワークショップ」の経験をしていただく事が目的です。

さらに研修後にすぐに使えるアイデアやヒントをお伝え出来ればと実践例の中で授業に取り入れて効果のあったワークなどを紹介させていただきました。
また、セキュリティやシステムなどの問題ですぐに取り入れる事は難しいと思ったものの、ICTツールの紹介と活用例も随時お伝えし参考にしていただけるよう配慮しました。
これは退職後に学校以外の場で企業や多様な方々と接している時に強く感じた経験がもとになっています。
社会ではICTツールは、知っている事も、ある程度使える事も、ある意味常識の範疇で少なくとも先生方がどのようなICTツールがあり教育の場で使えるかを知っておく事は大切だと感じていたからです。

以上の内容をまとめ研修内容は下記のようになりました。

① 導入
ワークショップの特徴・ワークショップ型授業のメリット等の説明 ※スライド資料画像参考
 
② 実践例の紹介@灘高及び神戸女学院高等部
(家計分野での授業事例のシェア)
・実際に取り入れたワークとそのワークをワークショップ型に変えていくヒント
・ICTツールの活用のアイデアなど
③ ワークⅠ
「気になっている授業の観察と分析」(授業への手直しや新規授業作りを考えている授業)
④ ワークⅡ
「気になっている授業についてのアイデア発想」
⑤ まとめ
※みらい家庭科ラボからのお知らせ

ここで実践事例が私学の中高一貫校で進学校になったのは退職前の勤務先が関係しています。今回の事例は進学校で実践したものではありますが、今回紹介させていただいた下記のスライドのようなワークはすでに取り入れていらっしゃる先生方も多いと思います。内容を生徒さん達の現状に合わせて修正していけばどんな学校でも取り入れられるかと思います。
ただ、すでにいろいろな形で授業で取り入れているワークを個人での作業と先生のチェックだけに終わらせずワークショップ型に展開するかが難しい所だと思います。
今回の研修では、個々人の生徒達の気づきや視点をICTツールなどをうまく取り入れ、グループやクラス、学年などで幅広くシェア出来る環境づくりをするでワークショップ型に展開出来るのではないかという提案をさせていただきました。

3 ワークの詳細プラン

【観察・分析】
ワークについては「進化思考」という本をベースにして前半はワークシートを3枚準備し授業の観察と分析に個別に取り組んでいだたく事にしました。
ワークシートを使い、気になる授業について気づいた事や思いついた事を書き出し整理してもらいます。
「進化思考」についてはこちらのサイトからご覧いただけます。
https://amzn.asia/d/e9XdxRf

前半のワークではワークシート1枚の中にテーマと自分が書き出した言葉やフレーズをおさめる事で全体を俯瞰し、気づきや新たな視点を得る事を目指す事としました。
(使用したワークシートの一部の例)

【アイデア発想】
後半ではアイデア発想についての別のワークシートを用い、出て来たアイデアを書き出してもらうという内容を考えました。
9つの視点からアイデアを考えるワークが出来るよう考えました。

4 研修後の感想

研修でのスライド

研修では20名を超える家庭科の先生方とご一緒出来、とてもありがたく思いました。

実際に研修を終え、先生方にご協力いただいたアンケートの結果も拝見し、担当させていただいて良かった点と反省点は次の通りです。

〈良かった点〉
・短い時間だったが先生方同士が家庭科の授業について対話する場づくりが出来た。(授業について書き出したワークシートを共有しながら話せたので会話がはずんだのではないかと思います)
・授業に使っていただけるようなアイデアやICTツール情報などのシェアが出来た。
・授業づくりについての柔軟なとらえ方に関心を持っていただいた先生がいらした。

〈反省点〉
・研修でのワークショップの定義を明確にお伝えする事が出来ず曖昧なまま研修を終えられた先生がいらした。

これについては最初のワークショップの説明が曖昧で、この研修で提案する「ワークショップ型授業」が次の3点の特徴を持つ授業という事を明示できなかったのが反省点です。
・生徒達が主体性を持って参加出来る
・知識を得るだけではない体験が出来る
・自分以外の幅広い層の考えや視点に触れる事が出来る。

この3つの点で考えると、教師側が指示し生徒達があまり興味関心を示さないグループ討議などは
ワークショップ型の授業とは言えず、自分自身が在職中に行っていたグループ討議もこれに当てはまっていたと反省しています。

研修会場の教室


最後に一番大きな反省点は時間配分がうまく行かず、アイデア発想の部分がほとんど出来ず研修の終了の仕方が慌ただしいものになってしまった事です。この点に関しては本当に申し訳なかったと反省しております。

アイデア発想も「進化思考」をベースに9つの点でのアイデアを考えてみるというものでした。
そのアイデア発想の方法の説明に加え、公立から私学に勤務場所を変えて授業や実習を変えた内容をお伝え出来ればと考え時間がかかってしまいました。

この変異の9パターンに、実際に経験してきた授業のアイデアをあてはめると次のようになります。
〈変量〉
超長く授業数をとる。高校家庭基礎で企業とコラボして行った商品の広告実習についての授業数を2学期の半分を使って実施していた事例です。
〈擬態〉
研修でテーマとして「ワークショップ型」授業。詳細は後述のHPの記事をご覧ください。
〈欠失〉
私学の男子校での被服実習では「持ち物」が一切ない実習を行っていました。全て学校で準備し持ち帰りも禁止する方法をとっていました。
〈増殖〉
私学では家庭科室がない学校もあったので、とにかく授業場所に掲示物や実物など生徒達が興味・関心を引きそうなものを増やしていました。
〈転移〉
男子校の私学で調理室がない学校で調理実習をした時は食堂にシンクを設置していただき食堂の休業日に実習をしていました。場所を調理室から食堂に転移した例です。
〈交換〉
私学の中学の調理実習では食堂で行う際、炊飯をしにくい状況にあったので、災害時の「アルファ米」を炊いたご飯と交換して取り入れていました。〈分離〉
私学の女子校で調理実習を担当した時、高3学年だったので、最低限やって欲しい基本の調理実習の献立の部分と生徒達が自由に出来る自由調理の部分に分けて実習を行っていました。実習を分ける方法でした。
〈逆転〉
「正解を引き出す授業」から「正解のない問いに答えてもらう授業」への逆転。通信制高校での講師歴が長かった自分にとっては、この逆転には苦戦しました。
〈融合〉
家庭科の授業に思考法を取り入れる取り組み、家庭科と思考法の融合として私学の中学ではマインドマップを取り入れた授業をしていました。

これらの実践は、実際に課題として目の前に出て来た時には本当に大変で頭を悩ませました。ただ今ではどんな環境でも状況でも家庭科の授業は可能で柔軟に対応できる科目である事を改めて感じる事が出来るいい経験となりました。

5 まとめ

今回の研修では先生方に「気になる授業」の観察と分析、その授業を実際にデザインしていくためのアイデア発想のワークに取り組んでいただきました。
その過程で実際に先生方がワークショップ型の授業を行う場合に活用出来そうなコーチングの手法などから得たヒントも少しお伝えしました。
それは自分が在職中に一方通行の講義型からワークショップ型の授業にシフトさせていこうとした時に大変だったからです。
今でも自分のやっていた事がワークショップ型授業にちゃんとなっていて生徒達の主体性を引き出し、幅広い層の視点や気づきを得る事が出来るような授業が出来ていたかというと自信はありません。それに近いような取り組みは一部出来ていたという自負はありますが、生徒側からのしっかりしたフィードバックを受け取っていないのが現状です。

それでも今回、研修でこういう内容を取り入れさせてもらったのは時代がそれを要請していると感じたからです。特に高校生の生徒達が卒業後に出て行く事になる社会は変化が激しく、正解のない問いが矢のように飛んでくる社会。
その中で生徒達が自分をしっかり持って生き抜いていく力を身に付けるために家庭科の果たす役割は大きいのではないかと思うからです。
そして、このようなワークショップ型を取り入れやすく、テーマも身近な生活の中から選べる家庭科こそ時代にニーズに応える事が出来ると思います。

今回の研修は中途半端な形で終わってしまい、先生方には「気になる授業」を手直したり、新規の授業作りをしていく”きっかけ”としかならなかったのかもしれません。

ただアンケートでご回答いただいた中に「自分のその科目への思いに気づけた」という内容の回答がありとてもうれしく思いました。

今後もみらい家庭科ラボは、家庭科教育に携わる皆さんのサードプレイスとして少しでもご要望にお応え出来ればと思います。
家庭科ほど可能性に満ちたみらいの希望になる科目はないとスタッフは信じています。
長文をお読みいただきありがとうございました。

(終わり)

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