リカレント教育と女性の仕事(フォーラムに参加して)

1 はじめに

「あの時、仕事を辞めなければ今頃はもっと違う人生を送っていたはずだったのに」学校卒業後に何かの事情でキャリアを手放した女性にとって人生の選択は、その後の人生に大きな影響を与えます。

でも”退職”を決める時は「これが最善の選択」と信じ、もし何かあれば「再就職すればいいだけだから」と考える人も多いのだろうと思います。

私もその1人。大学卒業後、2年間の非常勤講師生活を経て教員採用試験に合格。山奥の分校で農業科の家庭科教諭としてフルタイムで働いていた時に、企業で勤めていた夫にアメリカ転勤の話が持ち上がりました。

分校での教員生活は朝は早く帰宅は遅く、初任者研修や部活動、農業クラブの指導や引率に生徒指導など、やる事が多すぎて大変な日々でした。教師になって2年目、少し慣れた頃から農村地域に特有の濃密すぎる人間関係に悩み「何のために教師になったのか」分からなくなっていた時に降ってわいたように出て来た話です。

飛行機に乗った事も、ましてや海外なんて行った事がなかった自分に「アメリカで暮らす事なんて出来るのか?」「何より、ようやく掴んだ教諭の仕事をたった2年で手放すのか?」とても難しい決断に迫られました。
その時、自分に言い聞かせたのが「採用試験は、また受けられる。でも海外生活のチャンスなんか今しかない!」「教師のキャリアは帰国後に取り返せばいいだけ」という何とも甘い考えでした。

そして渡米。シリコンバレーでの生活の中で長男を出産し1歳になる前に帰国が決まり、そこから束の間の専業主婦生活を経て、長い長いパート生活が始まりました。

渡米前は”親も近くにおらず夫も猛烈に忙しい企業戦士でほぼワンオペ育児”をするしかなかった私にとってキャリアを取り戻す事なんて夢のまた夢という事など、アメリカに行く事を決めた時点で想像する事なんて出来ませんでした。

その時から数十年経ち、今では働く女性を取り巻く環境は産休や育休の制度や父親の育児への協力などかなり改善されていると思っていました。しかし昨年学校を辞めた後に始めたSNSを通して女性達のリアルな発言を見聞きするようになると私のイメージしていた”女性にとって働きやすい社会”とはかけ離れた現実が見えて来ました。

同時期に【リカレント教育】という言葉を耳にするようになり、それが女性の置かれている立場を改善する鍵かもしれないと知りました。
そんな時に知ったのがタイトルのフォーラムの情報です。『コロナ時代の「女性の教育と就労支援フォーラム」』の開催! これは聴かないわけには行きません。早速申し込みをしフォーラムに参加しました。

ここではフォーラムで知った女性を取り巻く現状今後の動き、昔の自分のように子育てなどでキャリアを中断した女性や働きながらキャリアアップを目指す女性のために自分に出来る事などをまとめています。
再就職やキャリアアップに関心のある方、リカレント教育に興味をお持ちの方などのお役に立てればうれしく思います。

2 女性を取り巻く現状

現代の女性の就業についての現状について、フォーラムの中で印象に残ったのは次のような点です。

① M字カーブは解消傾向

女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇するという,いわゆるM字カーブを描くことが知られており,近年,M字の谷の部分が浅くなってきている

〈男女共同参画局 女性の労働力率の変化の背景より抜粋〉

学校で家庭科を担当していた時に度々触れて来た「M字型曲線・カーブ」。今は先進国に近い形に変化し、キャリアを途中で手放す女性は減って来たようにと思われます。

② 数字から見る現状

女性の就業希望者は198万人。
女性就業者の56.1%が非正規雇用。
非正規雇用の中の129万人が不本意非正規

※不本意非正規雇用者とは、①非正規雇用者であり、かつ②現職についた主な理由が「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した人を指す。

〈リクルートワークス研究所〉

やはり女性の非正規雇用は全体の半分以上を占めています。この状況が変わって行かないのはとても残念な事です。また、かなりの人数が不本意だけど非正規の仕事をしているという現状は社会全体でしっかり向き合わなければならない課題だと思います。やる気がある女性の意欲をくみ上げ、活躍できる場をつくっていく事が不可欠だと痛感しました。

③ 再就職に必要と思う支援

・求人情報
・仕事と家事や子育てを両立するサポート
・再就職のために知識や情報
・ネットワークづくりなど

SNSがこれだけ発達した今でも、必要な情報が受け取れていない状況にあるのかと驚きました。またネットワークづくりについても、今はたくさんのネットワークやコミュニティがあり過ぎて選ぶのが難しい時代なのかなと感じました。

④ 再就職に向けてあればよいと思う講座

【女性】
・資格や実務
・ビジネススキル
・語学力など
【企業】
・コミュニケーション能力
・リーダーシップ能力
・働くにあたっての社会性を取り戻すための学び
・時間の使い方など

女性と企業側の”あればよいと思う講座”の内容が違い過ぎて驚きました。説明の中で印象に残ったのは「企業が再就職をしようとしている女性に求めているのは”非認知能力”ではないか?」という言葉です。

女性は実務的で実用的なスキルや資格を身に付ければ再就職に有利になると思っている人が多いのではないかと思いますが、実は「人あたり」とか「会話力」などの社会性が求められているらしいというのは、とても興味深い内容でした。

⑤ その他

これら以外にショックを受けたのは「日本の女性の高等教育の経済的リターンが海外の先進国と比べてかなり低い」という事でした。

これは私自身が自分の人生の中でも、ずっと罪悪感を感じ続けた事だったからです。
実は私が大学に進学をした時、うちの親は親戚の借金の連帯保証人になり多額の負債を背負っていました。それでも大学に行かせてくれたのは、母の「自分のように夫に養われるだけの人生を生きて欲しくない」という強い思いからでした。結局、フルタイムでは2年しか働かなかったので母から「せっかく大学まで出して教員免許を取らせてやったのに非常勤講師しか出来ないダメな娘」というレッテルを貼られ、つらい思いをしました。

経済的リターンが高くなるような、女性が教育を受けて身に付けた自分の力を思う存分発揮できる社会に早くなる事を心から望みます。

また理系女子が15歳時点で持つ高いポテンシャルの事も衝撃を受けました。
中高生時点での女子の理系スコアはOECDで2位という高い位置にあるのに、進学先で理数系を選ぶ女性が少ないのはとても残念に感じました。

ただ、今後、母校の奈良女子大でも、もう一つの国立女子大のお茶の水大学でも工学部が出来て、リケジョと言われる”理系女子”という人財をこれまでとは異なるカリキュラムやアプローチで育てて行くと聞きました。(これはフォーラムの情報ではありません。)そういう動きがもっと活発になればと願っています。

3 今後の動き

では実際に働く意欲のある女性、働きながらキャリアアップを目指す女性に対してどんな対策が行われているのか?

「女性の活躍推進」というのがただの掛け声だけで終わらないように、本当に必要な女性に届いているのか、とても心配になる所です。
今回のフォーラムでは、今話題の【リカレント教育】について、その現状や幾つかの大学などでの取り組みやそのフィードバックなどが紹介されました。

社会人になってからも、学校などの教育機関に戻り、学習し、また社会へ出ていくということを生涯続けることができる教育システムを指す。リカレント(recurrent)には、繰り返しや循環といった意味があり、回帰教育、循環教育と訳されることもある。また、「学び直し」と表現されることもある。

〈知恵蔵の解説〉

このフォーラムでは「女性の就労と教育」がテーマなので、女性の再就職や働いている女性のキャリアアップなどのための【リカレント教育】についての説明や実践報告が行われました。

その中で【リカレント教育】をめぐる現状については次のような点が印象に残りました。

① 学びのための環境整備として必要なこと

・費用負担の軽減
・保育や一時預かり
・短期間で学べるカリキュラム
・夜間や休日などを利用した弾力的な開講日程など

どれも非正規が多くを閉めたり賃金に格差がある女性にとっては出来るだけ早く整備して欲しい事ばかりだろうと痛感しました。

② リカレント教育推進事業の内容

・デジタルやグリーンなどの成長分野
・医療や介護
・地方創生
・女性活躍起業など

大学で開講されている実践報告を聞いているとIT人材の育成などを取り入れている所も多く、これからの時代に合ったスキルを身に付ける事の必要性を強く感じます。

今回、実践報告をしていただいた大学などの講座の一部はこちらからご覧いただけます。

〈福岡女子大学〉

〈京都女子大学〉
〈山梨大学〉

 

他にも取り組みを紹介していただきましたが、どこもそれぞれの特徴があり、とても興味深いものでした。その中で特に興味深く思ったのが”インターン制度”の活用です。
自分自身がマイクロスクールという場所でインターンをした苦い経験から、それぞれのプログラムを受講された皆さんがより充実したインターン経験を積む事が出来ればと心から思いました。

インターン経験については、こちらからご覧いただけます。

③ ニーズの違い

こういうリカレント教育の講座を受講する人についての分析も興味深いものがありました。それは次のような感じです。

・生活のために不可欠な人
・就業への意識が高い人
・管理職候補になるような人

実際に企業などで働いている女性ならば社内で【リスキリング教育】を受ける機会も増えるのだろうと思いますが、社外でのネットワークをつくるという意味では大学や大学院などでの受講を選ぶのもうなずけました。

リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルや知識の習得を目的に、勉強してもらう取り組みのことだ。

〈reccurent〉

④ 自主的に学ぶ女性のために

再就職に備えて、またはキャリアアップにために自主的にネットや本で学んでいる女性も多いと聞きました。ただ個人での活動は限界があり、実際に就職までつながるのは難しいかもしれません。
やはり大学などで学びたいと思う人のために、フォーラムで紹介されていた学習記録の可視化が出来るサイトがあるようです。興味を持たれた方はご覧ください。

4 まとめ

① これまでの経験と感想

「何とかして社会復帰したい!」「どんな仕事でもいいから再就職をしたい!」アメリカから帰国して、子育てと家事に追われる日々の中でいつも考えていた事でした。

当時は情報が本しかなく図書館などで本を借りては再就職に有利な資格の情報などを読み漁り少しでも前に進もうともがいていた日々を思い出します。

それから数十年たった今、情報はあふれる程あり手に入りやすくなったけど女性の就労や就業をめぐる状況は私自身が悩んでいた頃とあまり変わっていない所も多いのが現状です。

もちろん、当時に比べて起業もしやすくなり、ハンドメイドの作品なども売りやすくなり、女性の仕事を支えるコミュニティもたくさん出来ています。ただ、そこに飛び込んで行けたり実際に行動に移せたり出来る女性がどの位いるかと考えると分かりません。

特に今、コロナ禍で人と人の分断が問題視されている中で、それでなくても孤立しがちな乳幼児を育てているママ達は働きたいと思っても身動きが取れず大変な状況にいるのかもしれません。

② 自分に出来る事

その中で「自分に出来る事は何だろう?」と真剣に考えるようになりました。私は再就職がうまく行かずフルタイムになる事も出来ず、もがき苦しんだ経験を働きたいと強く願う女性には経験して欲しくないと心から思います。

かといって、アラカンで60歳を前にした自分が子育て中の若い世代の役に立つ事がどんな事なのか? 世代のズレや価値観の違いを乗り越えて「今の自分に出来る事」これを考え、試行錯誤(ある意味で実験を)しながら働く女性の力になりたいと”働く女性のKURASIラボ”という活動を本格的にしていく事にしました。主な活動は”橋渡し役”です。

・働きたい女性のための再就職や働く女性のキャリアアップなどに役に立ちそうな情報やアイデアをシェアしていく事

・育児などで社会から遠ざかっていたブランク期間のデメリットをメリットに変えて行けるような気持ちの切り替えや複数の視点の持ち方などを一緒に身に付けられるような時間をシェアしていく事

・仕事と家庭やプライベートな暮らしのバランスが取れるような今の時代にあった”暮らし方”、特に自分に優しい暮らし術などをシェアしていく事などこれらの事を少しずつ始めています。

ここで書かせていただいた事はフォーラムで聞いた内容をまとめ、私個人の考えなどを付け足したものです。働く女性や働きたい女性のお役に立てれば幸いです。長文をお読みいただきありがとうございました。〈終わり〉

#働く女性
#女性活躍
#再就職
#リカレント教育

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